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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)5420号 判決 1963年10月15日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し、金一三六、七〇〇円およびうち金三〇、〇〇〇円に対する昭和三七年八月一日から、うち金一〇六、七〇〇円に対する同年八月八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  被告は原告に対し、つぎの(1)の約束手形を、訴外有限会社伊達合金鋳造所に対しつぎの(2)の約束手形を、いずれもその支払拒絶証書作成の義務を免除のうえ白地式で各裏書譲渡した。

(1)  金額金三〇、〇〇〇円、満期昭和三七年七月三一日、支払地東京都品川区、支払場所株式会社平和相互銀行小山支店、振出地東京都大田区、受取人高坂商店(被告)、振出日白地、振出人加藤志葉

(2)  金額金一〇六、七〇〇円、満期昭和三七年八月七日、振出日白地、その他の手形要件(1)に同じ

二、訴外有限会社伊達合金鋳造所は、第二裏書人として前記(2)の約束手形を原告に対し、白地式で裏書譲渡し、原告は前記(1)の約束手形とともに現にその所持人である。

三、原告は右二通の約束手形を、その満期に支払場所において支払いのため呈示したが、その各支払いを拒絶された。

そこで、原告は右各手形の裏書人である被告に対し、右各手形合計金一三六、七〇〇円および各約束手形金に対するその各満期後である各満期の翌日に該る日から支払いずみまで、手形法所定の年六分の割合による利息金の支払いを求める。

と述べた。

被告は適式な呼出しを受けながら、本件の最初になした口頭弁論期日に出頭しなかつたが、その述べたものとみなされた答弁書の記載によれば、主文と同旨の判決を求め、その請求原因に対する答弁として、

請求原因事実中原告主張の各約束手形の支払いが拒絶された事実は認める。その余の事実は否認する。

と謂い、なお、仮定的に抗弁として、

本件各約束手形の正当な所持人は、訴外伊達合金鋳造所渡辺芳二である。原告は右渡辺の机上から右二通の約束手形を無断で持出し、最終裏書人として原告の記名が記載されているのを奇貨として、本訴を提起したものであつて、正当な手形の所持人とはいえない。

と謂うのである。

理由

一  原告主張の請求原因事実によれば、本件二通の約束手形は、いずれもその振出日欄が白地であり、従つて、約束手形の形式的要件である振出日の記載が欠缺していることになり、このような手形はその要件の適法な補充がなされないかぎり有効なものと解することはできないこと論をまたないところである。

二  ところで、原告の本訴請求は、右各手形の裏書人である被告に対する遡及権に基づくものであるところ、遡及権の行使にはその要件として当該手形(本件においては前記二通の約束手形)が適法に呈示されたうえその支払いが拒絶されることを要する。そうして、本件各約束手形は確定日払であるから、それが適法に呈示されるためには、手形要件の具備した有効な手形(いわゆる完成手形)が、満期日またはこれに次ぐ二取引日内に支払場所において支払いのため呈示されることを要するのである。ところが、原告の右請求原因事実によれば、原告は前記のような手形要件の具備しない不完成手形を各満期日に呈示したと主張するにすぎず、振出日欄白地が補充された各完成手形が各支払呈示期間中に呈示された旨の主張はない。原告の右主張によれば、本件各約束手形の適法な呈示はなかつたことになり従つて、各裏書人である被告に対し、本件約束手形金を遡及するための要件は充たされず、結局原告は被告に対するいわゆる手形遡及権を喪つたものというほかはない。

三、してみると、原告の被告に対する本訴各請求は、いずれもその余の点を考えるまでもなくその主張自体理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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